インターネットは大規模なネットワークです。
設計の立場からは、世界中のコンピュータをつなぐところまで成長していくことを前提としています。
少なくともそこまでの規模に耐えられる技術や仕組みがどうしても必要なのですが、そのためにはインターネットが「分散型」の仕組みであることが大切です。
それは、どこかに「中心」があって、その中心が全体をすみずみまで制御するという「集中型」の仕組みでは、この前提のようなネットワークが世界大の規模でどんどん成長していく場合には耐えられないからです。
接続したいコンピュータを世界中で次々と仲間に入れていくためには、世界中に分散した小さなネットワークを単位として考え、これらの集合として全体のインターネットを考える必要があります。
こうした「分散型」のネットワークが発展していく体系を、細胞分裂をしながら成長していく体系、となぞらえる人もいます。
実際にインターネットの発達は、細胞分裂に似ています。
前にも述べましたが、インターネットが提供しているものは、デジタル情報を世界中のあらゆるコンピュータから、あらゆるコンピュータへ伝える基盤です。
つまり、あるコンピュータから発せられた情報は、世界のどこのコンピュータにも着かなければいけないし、世界のどのコンピュータから発せられた情報も、目の前のコンピュータに着かなければいけない。
こういう道と方法を提供しているということが、インターネットのいちばん基本的な役割なのです。
しかし、世界に存在するコンピュータは膨大な数にのぼり、しかもその数は加速度的に増えています。
今後どんなにコンピュータが増えても、どんなに規模が大きくなっても、必ずそのコンビと通信ができるという仕組みをつくらなければならない。
こういった急激な増加に対応するのはとてもむずかしいのですが、それをインターネットではなんとか可能にしなくてはなりません。
では、それはどのようにして可能なのでしょうか。
くわしい技術的説明はさておくとして、そのカギは先ほど少しふれた、「分散型」の運用にあります。
「分散型」の運用とは、個々のネットワークは自律的な存在で、そのようなネットワークが相互につながっている状態でインターネットの仕組み用されるということです。
「インターネット」という言葉は、ネットワークのネットワークという意味が語源なのです。
ですから、要素となるそれぞれのネットワークの機能やサービスは自律的に決められています。
したがってひとつひとつのネットワークは、インターネットにつながるための最小限の約束事以外は、かなり自由にふるまうことができます。
その約束事で、ひとつのコンピュータから、どんなコンピュータへでも届くという仕組みをつくっているのです。
インターネットで、この約束事を実現するソフトウェアは、MSウィンドウズやOS/2、UNIX、マッキントッシュなどのオペレーティングシステム(OS)や、ルーターなどのネットワーク機器のすべてで動いています。
そして、それらが協調してインターネットの仕組みとして働いているのですが、そのために働いているソフトウェアは、それぞれ別の技術者がつくっています。
それでも正しく互いに協調して働くということは、簡単ではありません。
最小限の約束事を共有し、おおかたの仲間と正しく協調してコミュニケーションが取れることを相互運用性(インターオペラビリティ)といいます。
それぞれの自律性、独自性を維持しつつ、相互運用性を確保するための取り決めをどう工夫するかがインターネットの重要な課題なのです。
インターネットの仕組みを説明するとき、私はいつも鉄道の仕組みになぞらえて考えていただくことにしています。
鉄道の仕組みというのはインターネットの仕組みとたいへん似ていて、インターネットのほとんどの特徴が、鉄道の仕組みを考えることでわかるからです。
まず、道具だてを説明しましょう。
鉄道の各駅はそれぞれのコンピュータ、各路線はいろいろなコンピュータ・ネットワークにあたります。
そして互いに交わって、乗換駅をもっている路線の集合がインターネットです。
この乗換駅は「ルーター」とか「ゲートウェイ」と呼ばれますが、乗り換えをする人がいる以外はほかのコンピュータと変わりません。
もっとも、乗り換えしかしないとなれば、改札口より外側の機能はいりませんので、そのようなコンピュータもあります。
これを「専用ルーター」などと呼んでいます。
また、ほかの路線と全く交わらない鉄道も存在しますが、それはインターネットと接続されていないコンピュータ‥ネットワークに当たります。
インターネットの仕組み鉄道網では、ひとつひとつの路線(ないし鉄道会社)の自律性は非常に高く、経営的な基盤も提供するサービスも、それぞれ違っています。
そして、新しい鉄道が敷設されると、その鉄道はその鉄道で自律的に、新しいサービス、新しい営業をしていくのですが、全体としてみれば鉄道網がさらに広がって、行ける場所が増えるということになります。
これとまったく同じことが、インターネットにも言えます。
インターネットも個々のネットワークは、自律した運営がなされ、自律したサービスを提供しています。
インターネットを構成しているネットワークは、たとえばある私企業のネットワークであったり、大学のネットワークであったり、あるコミュニティで会費制でつくられたネットワークであったりします。
これらが相互に接続されて、インターネットはできているのです。
目的もサービスも違うネットワークが、相互に接続されているという点で、インターネットは、鉄道とたいへんよく似ているのです。
そして、独自につくられた新しいネットワークも、「乗換駅」をつくることによってインターネットに加わることができるという「拡張性」の面も、よく似ています。
また、鉄道網全体のオーナーはいない、というところも同様です。
つまり、インターネットの世界にも、統一的な制御や、支配をしている存在が、基本的にはありません。
さて、このように鉄道網のなりたちは、インターネットにきわめてよく似ていますが、その機能もとてもよく似ています。
私たちが鉄道を使うことによって、どの駅からどの駅へも、路線を乗り換えながら、必ず行くことができるように、インターネットでも、どのコンピュータからどのコンピュータへも必ず情報が到達できます。
この、到達性(リーチャビリティ)についてもう少し深く考えてみましょう。
必ず着く、その信頼性を高めるにはどうしたらよいでしょうか。
ここでも鉄道網が非常に参考になります。
鉄道網の信頼性は一般に高いと思われています。
それは、なぜでしょうか。
もちろん、めったに不通になったりしないということも重要ですが、―方で、たとえ故障やストライキによって、ある路線が止まっても、べつの乗換駅や路線を使えば、かなりの場所に―多少時間は余計にかかったりするにせよ―行けるということが重要なのです。
普通に考えると一つひとつの路線が止まらないことが最も重要で、簡単なようにも思えます。インターネットの仕組みです。
しかし、そのための完全性を追求するよりも、ある程度の不安定さを許容し、全体の仕組みでそれを補った方が有利な場合もあるのです。
東京や京阪神などのように鉄道網が密なところを想像すれば、それはよくわかります。
ある二点を結ぶのに、複数の路線や会社がありますし、直線的ではなく、回り道をする路線もあります。
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